小笠原と小豆島

はじめに

2004年3月末に小笠原から小豆島に帰ってきた僕が1番初めにやりたかったことは小豆島の海を知りたいということだった。
子供の頃に遊んだ海とはいっても、十数年もの長い間島を離れていた。ここに帰ってきた今の自分の目で小豆島の海をもう一度見てみたかった。
そうするためにはカヤックに乗って、島の海岸線をぐるりと1周するのが1番だ。カヤックを手に入れた僕は、5月の好天の中、小豆島1周の小さな旅に出かけることにした。

小豆島1周ルート 1日目
自然舎のある浜条の浜を出発し、途中内海湾の沖に浮かぶ福部島に上陸し、瀬戸浜にゴールした。
スタート
「ヨット、きぃーつけてなぁ」
(ばぁちゃん、ヨットじゃねーよ。カヤックだよ。)
そう心の中でつぶやきながら、
「うん、行ってくるわ」
と祖母に笑顔で答え、浜に向かう。
今年88歳になった僕のばぁちゃんは何度教えてもカヤックのことをヨットと呼ぶ。

私の祖母の家は2階の窓から海が見下ろせるぐらい、海で遊ぶには絶好のロケーションにある。子供の頃、夏になるといつも祖母の家の玄関に服を脱ぎ捨てて、海に向かってダッシュしていた。そして小笠原から小豆島に帰ってきた今、カヤックのベースとして再びお世話になっている。

2004/5/24  浜条〜白浜
8:00 浜に出ると誰もいない砂浜に青い色をした細長いフネがぽつんと置かれてある。今日から自分と一緒に島一周の旅にでる相棒である。今回使用するカヤックは全長は5.4mもあるが、幅は56cmしかない。カヤックを初めて見た人は「こんなフネで大丈夫かいな?」と一様に不安がるが、一度カヤックに乗ってみると、意外に安定性がいいのに驚く。

カヤックには前後に荷物室があり、真ん中の人が乗る部分とは壁で仕切られている。今日はここに島一周(予定3泊4日)に必要なテントや寝袋、食料などの荷物を積み込む。

「こんなようさん、入るんかいな?」
ばぁちゃんの心配をよそに、"あーでもない、こーでもない"と汗をかきながら荷物を積み込んでいく。実は小笠原ではキャンプが禁止されていたためにテント泊を伴うカヤックの旅は今回が初めてなのだった。全ての荷物をようやく収めきり、フタを閉めたのは積み込みを始めてから30分後のことだった。

弁天島
池田湾に浮かぶ小島。島には弁天様が祭られている。
写真に写っているあずま屋にはオレンジ色の板塀が写っているが、この年の台風で吹き飛ばされて現在は柱のみとなっている。
8:50
さあ行くぞ!と気合を入れるも、見送りは、ばぁちゃんだけ。そそくさと船を海に浮かべ、島一周に向けてのスタートを切った。

海はべた凪。日ざしはきついが5月の涼やかな風の中、気持ちよくスイスイと三都半島の西側を南下して行く。このあたりの海岸は開発がそれ程進んでおらず、自然の海岸が多く残されている。

カヤックに乗って沖から島を眺めると、改めて小豆島の自然の豊かさを感じる。海と山がコンパクトにまとまっており、多様な自然を楽しむことができる。多くの海岸線が開発の波をうけている備讃瀬戸の中における貴重な宝の島である。

10:00 
出発して1時間半で三都半島の先端、白浜に到着した。カヤックから降りて白い砂浜に座り、ボォーっと沖を眺める。何隻ものタンカーが通り過ぎていく。その手前には潮が川のように流れているのが見える。

小豆島にもこんなところがあったんだ。なんだかこの旅でどんな小豆島が見えてくるのかワクワクしてきた。しかし、あいにく潮流(潮の干満によって起こる流れ)は進行方向に対して反対に流れている。

こんな時にどうするか、とるべき方法は2つ。流れの小さい岸スレスレを進むか、浜で昼寝でもして、潮が止まり、反対に流れ始めるのを待つかだ。急ぐ旅でなければ、潮が変わるのをゆっくり待っていればよいのだが、今日はどんどん先に進んでいきたい。そこで、岸スレスレ航法を取ることに決めた。

白浜
三都半島の先端にある白い砂浜の美しい海岸。
砂浜に座り、沖を眺めてボーッとできる。
流れ着いたゴミが多いのがちょっと悲しい。
カヤックに乗り込み海に出てみると、上手い具合に緩やかな追い風が吹いている。風を味方につけて三都半島の先端を一気に回り込んだ。

沖には福部島が小さく見える。三都半島の東側を北上して、田浦半島に渡ろうと思っていたのだが、せっかくだから小豆島の属島も全て一周しようと計画を変更し、福部島にカヤックのバウ(舳先)を向けた。

このあたりは草壁と高松を結ぶ定期船の航路になっている。周りに意識を集中し、漕ぐ力を強めて航路を横断した。福部島に近づいた頃、後ろを振り向くとフェリーと高速船が通過していくのが見えた。カヤックを漕ぐ時には海が荒れているときはもちろん、航路を横切る時にも判断力が必要とされる。

福部島の周りの海はとてもきれいだった。数m下の海底が透けて見えている。瀬戸内海といえば緑色の濁った海というイメージしかもっていなかったので、これには驚いた。潮の関係なのか、単に太平洋に近いからなのか、小豆島は東に進むにしたがって海がきれいになっていくようだ。
激流
白浜の沖では時間帯によっては川のように潮が流れている。
大潮などの潮の干満の差が大きい時には3ノット(時速5.5km)もの激しい流れが発生する。
11:30
福部島に上陸すると、思いもかけず、島の住民からの歓迎を受けてしまった。なんと、この小さな島にサルが生息していたのだ。

近づいていくと、「ギャー、ギャー」木を揺すっての大歓迎。少なくとも3〜4頭を確認した。(後から、この島に昔サルを放した人がいるということを聞いた。)あまり興奮させないように、少しはなれたところでお昼ご飯にした。

5月の太陽はまぶしいくらいに暖かく、Tシャツに短パンで浜に寝転んだ。


13:10
島の住民に別れを告げて、出発する。福部島をぐるっと一周して、対岸の田浦半島を目指した。岸に近づくと24の瞳映画村の分教場が見えた。まるで小船に揺られて分教場に向かう大石先生の気分!

しばらく行くとウェットスーツを着て素潜りをしている人たちがいた。話を聞くと、サザエを採っているそうだ。「えーっ、小豆島でもサザエが採れるんだ。スゴイ!」驚いてしまった。
福部島
内海湾の沖に浮かぶ小島。
この島にはな、なんと、○○が!
ウキッー!
(本文参照)
15:30
坂手港を通り過ぎ、児島を一周して今日の目的地である瀬戸浜に到着した。カヤックからテントを取り出し、浜に張る。このあたりの海は福部島よりもさらに透明度が高く、魚も多いようだ。

早速、糸と針だけの粗末な釣り道具を出して釣りを試みたが、道具が悪いのか、腕が悪いのか、魚は1匹も釣れなかった。したがって、この日の夕食のおかずは、山に落ちていく美しい夕日だけとなってしまった。

陽が落ちて浜に小さな焚き火をつくる。空には星が浮かんでいる。ふと後ろを振り向くと、藪の中で何かが光っているのに気が付いた。しかもその光はスーッと動いては消え、また光っている。近づいて光をつかむと、それは小さなホタルだった。こんな海のそばにホタルがいるとは。まだまだ自分の知らない小豆島がある。
その2につづく
ハマボウフウの花と実
この時期に白い可憐な花を咲かし、紫の実をつける。
青々とした葉っぱは刺身のつまなどに利用される。

備 考 : この記事は「月刊ピープル(2005年3月号)」(2005年3月より休刊中)に
掲載された記事を加筆・訂正したものです。



戻る

上へ
その2へ