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エベレストへの旅





エベレスト街道 トレッキング 5日目 素敵な朝と嫌な夕方

3月30日(トレッキング5日目 タンボチェ~ディンボチェ)

6時起床。窓の内側が凍っている。

身支度をささっと整えホテルの外へでる。寒い。地面は凍ってカチカチだ。

硬い地面を踏みしめながら、お坊さんと約束した時間よりも早めにゴンパへと急ぐ。

本堂のカギは開いているが中には誰もいない。

お坊さんたちが集まる前にイッコと二人で正面の仏様に手を合わせる。豪華絢爛きらびやかな装飾が施されている。美しさと荘厳さに思わず見惚れてしまう。

そして、お坊さんたちの邪魔にならないように端っこのスペースに座る。

本堂の中は撮影禁止となっているために写真はないが、中にはお坊さんたちが座るスペースが4列ほど作られていて、2列ずつがお互い向かい合っている。

座る場所はそれぞれ決まっているようで、本堂に入ってきたお坊さんはまず五体投地を行い、その後自分の座席に座る。

(五体投地とは五体すなわち両手、両足、額を地面に投げ伏して仏や高僧に礼拝すること。仏教において最も丁寧な礼拝方法の一つとされて、対象への絶対的な帰依を表す。Wikipediaより)

それにしてもダウンジャケットの上にえんじ色の袈裟を着ているのが面白い。

だいたいお坊さんが揃ったところで、突然セッションが始まった。

まるで美しい音楽のように、お坊さんの口から生み出される経典が、静かなこの空間を厳かに満たしていく。

本堂を満たした経典は僕の体の中に沁み込み、窓から外へと溢れ出て行った。

お堂から外へ溢れた経典はヒマラヤの風に乗り、世界中へ飛んでいく。

昨日お坊さんが言っていた。

「日本は大丈夫ですか?僕らはここから日本のことを思っても祈っているんですよ。」

ヒマラヤの風に乗って、日本へ、そして世界へ、優しい祈りが飛んでいく。

時々、祈りは中断され、一番若そうなお坊さんがみんなに熱いミルクティをついでまわる。イッコと僕にもついでくれた。

静かな本堂にお茶をすする音と口から吐かれる白い息。

そして再び始まるお経と小さな木魚の音。

ありがたい言葉は心を温め、熱いミルクティは体を温める。

約1時間の祈りの儀式が終了するとお坊さんたちが1人ずつ本堂を退席し、後には僕ら2人が残された。がらんとした本堂を僕らも後にする。

なんだか心も体もきれいに洗われたようだ。が、僕はカトマンズを出て以来シャワーにも入っていない。

外へ出るとものすごくよい天気が広がっており、お坊さんたちが日向ぼっこをしていた。

本堂にいる時とは違い。みんなニコニコしている。

「ナマステ。」

と挨拶すると、

「オハヨウゴザイマス。」

と返してくれた。

みんなとってもフレンドリーで優しい。なかにはfacebookをやっているお坊さんもいて、メールアドレスを交換する。

見た目は高尚な僧侶かもしれないが、みんなごく普通の若者なのだ。

なんだか幸せな交流ののち宿へ戻る。ほとんどのトレッカーたちはすでに出発していて、宿では掃除が始まっていた。

さて僕らも歩き始めよう。

タンボチェは尾根の上にある村なので、今日は下り坂から始まる。

下りは楽ちんと思いきや、昨日積もった雪が凍っていたり、少し溶けてシャーベット状になっているため、油断をするとつるつる滑る。

転んでヤクのウンチにまみれないように、慎重に坂を下っていく。

へっぴり腰でゆっくり進む僕たちの横を重い荷物を背負ったシェルパたちが追い抜いていく。そして坂の下からはぐいぐいと登ってくるシェルパ。

スパイクでもついているのかと足元を見るが、彼らのほとんどはペラペラのただの靴。

いったいどんな足腰をしているんだろうか?

もし重い荷物を背負っての山岳レースとかあれば、シェルパ民族の優勝は間違いないだろう。

エベレスト街道には所々に「ストゥーパ」と呼ばれる四面に目が描かれた仏塔が建てられている。

この目は四方を見渡すブッタの知恵の目とされており、街道をゆく人々の安全を見守ってくれている。

そして、このストゥーパや経典の描かれた大岩などがあると、街道はその両側に分かれている。

ここで重要なのは必ず時計回りでこの道を通ること。

つまりストゥーパや大岩の横を通り抜ける際には、必ず右肩がそれに向き合うように通らなければならない。

疲れてくると、2つの道のうち、楽そうな道を選択したくなるが、郷に入れば郷に従え。地元の文化にならって正しい道を歩くのが大切だと思う。

歩いていると小さな川を通り過ぎる。

おっ!そうだ。

天気も良いので靴下を脱いで洗濯を始める。

ついでに下着も脱いで洗ってしまう。

さらには裸で行水もしてしまう。

それは氷河が溶けた冷たい水。

ちょっと死ぬかと思った。

15:30 歩くこと7時間(お昼ご飯を食べたり、洗濯してかなり休んだから実際は5時間半程度か)。ようやく本日の目的地ディンボチェ(4350m)に到着する。

この高度になると高い樹木はもう存在しない。背の低い針葉樹が山肌を申し訳なさそうに覆っている。

しかし、こんなに標高の高いところにさえ人の暮らしがある。

きれいに石垣で仕切られた美しい畑では、家族みんなでジャガイモを植えていた。

お父さんが牛を引いて畑を耕し、息子が鍬を使い穴を掘り、お母さんががその穴に種イモを投げ入れる。

日の出とともに起き、日がな一日畑仕事。明るいうちに川で洗濯をし、ランプの明かりで飯を食べ、寒くなるとストーブの周りに家族が集まり、今日一日を振り返り、眠くなったら寝床に入る。

一昔前の日本でも当たり前だった毎日の暮らし。

シンプルな生き方。地球に優しい生き方。

そして僕らトレッカーの毎日も非常にシンプルだ。

起きる、食べる、歩く、寝る。

たまに洗濯、そしてストーブで乾かす。

しかし、シンプルだった生活にその日衝撃的な事件が起きた。

宿の部屋で荷物の整理をしていたイッコがあわてている。

「ないないない。1つしか持ってきてない替えのアンダーウエアーとパンツがない。」

「ないないない。バックパックのポケットに入れてた替えのSDカードとメモリースティックがない。」

「ないないない。バックパックの秘密の小袋に入れてたへそくりの一万円がなーい!」

「そんなはずないやろ。もっときちんと探してみれば。」

「どこをどー探してもないものはなーい!」

本当に消えてしまったようだ。

イッコの推測によると、どうやら今朝僕たちがゴンパの礼拝に参加している間、部屋に忍び込まれて盗難にあったらしい。

名探偵イッコによるとこうだ。

昨夜、イッコは宿のオーナーに今朝のゴンパの礼拝に参加することを話してしまったらしい。

部屋には鍵はかけてあったものの、それは宿が提供したどこにでもある南京錠。合い鍵さえあれば誰でも(特に合いカギを持っている宿の人)入れる。

そして僕らはガイドを雇っていない日本人。狙いやすいことこの上ない。

僕らが幸せな時間に浸っていたあの時、宿のオーナーは僕らの部屋に忍び込み、盗みを働いた。

ふむふむ冷静的確な推理だ。

というか、ひどすぎる・・・。疑いたくはないが間違いないだろう。

部屋のカギを信用し油断した僕らもいけないのだが、タンボチェの「HOTEL HIMALAYAN」(たぶんあのオーナー)許せん。

幸い僕のバックパックからは何も盗まれていなかった。

これ以降、持参したナンバー鍵を部屋の鍵として使用することにする。

明日はいいことありますように。


エベレストトレッキング豆知識

宿の鍵は信用ならないので、南京錠やナンバー鍵を持参した方が安全です。

トレッキング6日目につづく

タンボチェのゴンパ。早起きして朝のセッションに参加する。
ゴンパの若き僧侶たちと。みんな素敵な笑顔をしていた。
滑りやすい雪道をシェルパたちは重い荷物を背負ってなんなく歩く。
この辺りから荷物を運ぶのは中高度に適応したゾッキョから、高度に適応したヤクに変わって行った。ヤクは毛がふさふさしている。
ストゥーパとエベレストの山並み。
この目で世界を見守っている。
4000mに近い高度で家族みんなでジャガイモを育てている
氷河から溶けだした水が川になる
ヒマラヤの清らかな水で洗濯。チョチョー冷たい!
ヤクの糞は乾かして貴重な燃料とする。奥に見えるはソーラークッカー。
ディンボチェに着くころに雲がエベレストの方から降りてきて一気に寒くなる。
貴重なパンツを盗まれてしまったイッコ。陽気なイッコもちょっと落ち込む。