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エベレストへの旅

プロローグ

いつも僕の前を元気に歩いていたイッコが急激に遅れ始めた。

と言う僕だって、まるでカタツムリのようにノロノロと歩いている。なのに100mを全力疾走した後のように苦しい。

1歩歩くたびに空を見る。青というよりも群青色。1歩歩くたびに宇宙に近づいている。





エベレスト街道 トレッキング 1日目 出発

3月26日(トレッキング1日目 ルクラ~モンジョ) 

4:30 起床。

外はまだ暗いが、夜中から継続中の停電で室内の電気はつかない。ヘッドランプを使ってパッキングを行う。今日からいよいよエベレストトレッキングの旅が始まる。

昨夜はカトマンズ市内、美しい旧王宮やたくさんの寺院に囲まれたダルバール広場周辺の安宿に泊まった。

1泊350Rb(Rb:ルピー。1Rbが約1.3円)。貧乏旅行者にとっては非常に優しい宿だ。

カウンターの中で眠っていたお兄ちゃんに別れを告げ、外へ出る。
タクシーに乗って国内線の空港へ向かう。

日中あれほどの喧騒に包まれていたダウンタウンも今はまだ静かだ。そしてタクシーの運ちゃんは一言も発せず、車内も沈黙に包まれている。

しかし、カトマンズの街はすでに目覚め始めている。薄暗い街の中、人々がうごめく。

空港につくと入口にはすでに列ができ始めていた。だれもが大きなバックパックを背負い、トレッキングブーツをはいている。

僕らがこれから目指すのはエベレスト(標高8,845m)。世界一高いあの山だ。

といっても僕ら旅人が目指すのはエベレストの周辺で、エベレストのピークを目指すのはほんんの一部の限られた人々のみだ。

ネパール政府もその辺を厳密に区別している。6,000m以上のピークを征服することを登山、それ以下の山々を歩くことをトレッキングとしている。つまり僕たち旅人はトレッキングをしにエベレストに行く。

登山の場合には何ヶ月もの入念な準備やトレーニング、高額な入山料が必要だが、トレッキングの場合は初心者でも山登りの準備さえ整えれば明日からでも出発できる。

(ただし国立公園への入山料1000Rbとトレッキング証(TIMS)代金$21が必要。)

とはいえ、僕が目指しているのはエベレストトレッキングの最高峰「カラパタール」。標高は5,545mもある。富士山よりもはるかに高い。簡単には人を寄せ付けない場所だ。

海抜0mでのほほ~んと暮らしているこの僕が、はたしてそこまでたどり着けるのだろうか?

カラパタールの頂上から見えるだろう美しいエベレスト山脈への期待と高山病への不安が心の中で浮き沈みしている。

6:30
片側1列シート、総勢20名程度しか乗ることのできない小さなプロペラ機は「カトマンズ」を後にし、エベレストトレッキングの出発地点「ルクラ」へ向かって飛び立った。

こんな小さな飛行機にもキャビンアテンダントの女性がいた。しかも美つくしい!
出発前に乗客へキャンディと綿を配っていた。

「綿?」

隣のトレッカーが小さくちぎって耳に詰めている。なるほど耳栓ね。

飛び立ってみて納得した。機能性重視の小型プロペラ機には防音性など二の次なのだ。機内に、体に、エンジン音が響く。

7:00
約30分間の快適な空の旅ののち飛行機はルクラ空港へと降りたった。

しかしルクラ空港への着陸、これがハラハラドキドキものだった。

なにせこの空港、谷あいのわずかな場所に作られており、山肌すれすれに飛行機は下降していく。

しかも滑走路は非常に短く、なんと斜面!になっているのだ。

こんな小さな滑走路で大丈夫なのだろうかと不安になるが、エベレストの有能なパイロットたちは、この斜面を有効に利用してなんなく離発着を行う。

(ルクラ空港を離発着する飛行機は斜面を登るように着陸し、斜面を駆け下りながら空へと飛び立つ。)

爆音を立てている飛行機から降りたち、もしかしてこの飛行機には荷物が載っていなかったのではないかと不安になるくらいなかなか出てこなかった荷物をようやく受け取ると、人の壁となっているトレッキングガイドやポーター斡旋のごちゃごちゃとした人ごみの中を抜け、ようやくエベレストトレッキングがスタートした。

遠くには美しい雪山が広がっている。なにせこのスタート地点のルクラ、すでに標高2,800mもあるのだ。ちょっとした山の上だ。そしてここから標高5,545mのカラパタールを目指す。

エベレストトレッキングの街道はしっかりとしたものだ。
街道沿いには点々と街があり、そこには宿やレストランがある。
そして街道に沿って物や人、荷物を運ぶ動物が行きかっている。

ルクラの街を抜け、街外れのゲートをくぐり、街道をしばらく歩くとトレッキングのチェックポイントがあった。

ここで入山証をおまわりさん(もしくはアーミー?)に見せ、入山の記録を残す。帰りにまた寄って無事に下山できたかどうか確認するわけだ。

それにしても見るものすべて新鮮で歩くのが楽しくてしょうがない。

しばらくすると鮮やかなマニ車があった。

マニ車とは内部に経典を印刷した紙が納められていて、手でクルクルと回すことができる筒のようなものだ。1回転させればその経典を読んだのと同じ功徳があるとされる。

今回のトレッキングの行程は余裕を持って往復約2週間。往路に8日間、復路に5日間くらいの日程を取っている。

1日に約6~7時間歩いて少しずつ高度を上げていく。

標高2,500mを越えるような高い山に登る場合、たいていの人は高山病に陥る。

高山病にならないようにするためには1日に登る高度差を500m以内にし、3,600m、4,300mあたりで連泊を行い、体を高度に順応させながら登っていく必要がある。

一気に登ることは危険で、ゆっくり登れば登るほど体に優しく、高山病になりにくい。

無事にカラパタールまで行くことができますように。
これからの旅の無事を祈って何度もぐるぐると回す。

トレッキングルートは僕らトレッカーが歩くだけではない、この地に住む人たちにとっての生活道路でもある。

この辺に暮らすのはシェルパ族という民族だ。
「シェルパ」はエベレストに登る人たちにとっては切っても切れない心強い存在だ。
産まれたときからこの地に暮らしているだけあって、高地にすこぶる強い。

ということでシェルパ族の男性の主な仕事はトレッカーや登山家たちのガイドや荷運びなのである。(最近はシェルパ族にかかわらず荷運びうをする人たちをシェルパと呼ぶこともある)

街道沿いの宿への水や食料、建築資材などの物資を運ぶ者、エベレストベースキャンプ(BC)への物資を運ぶ者、様々な荷物を背負ったシェルパたちが行きかっている。

彼らは華やかなエベレスト登山家たちの影の功労者たちなのだ。
この旅の間ずーっと彼らの働きっぷりには驚かされることになる。

ほとんどのトレッカーたちがそういったガイドやポーターを雇っている中、僕らはガイドもポーターも雇わなかった。

今回の旅の仲間はイッコ。

パラグライダー、スキー、100kmマラソンやアドベンチャーレース(日本一過酷な山岳レースと言われるハセツネレースにも出場した経験あり)をこなすパワフルかつ陽気な女性。

昨年末にエベレストと同じくトレッキングで有名なアンナプルナ周辺をトレッキングし、ネパールが大好きになり、今回のエベレストに僕を誘ってきたのだ。

なにせ登山やトレッキングは1人では危ないし、楽しくない。2人で助け合ってカラパタールを目指すのだ!

というか、イッコに助けてもらいながらカラパタールを目指すと言った方が正しいかもしれない。
2,800mという高度ですでに息が上がっている僕の前をスキップを踏むようにイッコが歩いている。

この日のルートはルクラをスタートしゆるゆると街道を下り、川を渡り、再びゆるゆると街道を登るというルート。

下りは楽チンだったのだが、橋を渡り、道が登りになりはじめると急に体が重くなる。

これが高度トレッキングというものか。

しばらく歩いては座って休み、また歩いては休みを繰り返す。

体力に自信がありガツガツ登るような人が高山病になりやすいという。ガツガツなんてとてもじゃないけど進めない。僕にはガツガツ高山病の危険性はなさそうだ(笑)

14:30
歩くこと6時間半(昼休みを入れて)、今日の目的地のモンジョ(2835m)に到着した。

宿につき食堂でほっと一息ミルクティを飲んでいるとだんだんと雲行きが怪しくなり、とうとう雨が降り始めた。

雨の前にたどり着いた僕らは運が良い。ヒマラヤの神様は僕たちを歓迎してくれているようだ。

日が暮れると急激に気温も下がり始めた。
食堂の中心に据え付けられているドラム缶型薪ストーブに火がくべられ、トレッカーたちが火を囲む。

夕食を食べ、お茶を飲みながら旅の情報交換が始まった。

明日はかなりの上り坂のようだ。しかも高度は3,000mを越える。毎日が未知の世界。まるで自分の体を使って人体実験をしている気がする。

それにしても今日は長い一日だった。なんだか疲れて早めに部屋へ戻る。

部屋には明りがなかった。あのカトマンズの喧騒が夢だったかのようにここは静かで暗く寒い。

まるで飛行機がタイムマシンのように感じる。飛行機に乗るたびに世界が変化し、時代を遡っているような錯覚に陥る。浅い浅い眠りに落ちる。

トレッキング2日目 へ

ルクラ空港に無事着陸!
斜面となっているルクラ空港。 午後になると風や霧が発生して飛行が飛ばないことが多い。運が悪いと1週間ぐらい飛ばないこともあるらしい。
ルクラの街。ホテルやアウトドア用品店が軒を連ねる。ここからエベレストトレッキングが始まった。
ルクラのまちはずれのチェックポイントにて入山証を提示し、入山記録を残す。
マニ車を回し、旅の無事を祈る。
街道には老若男女、動物まで様々な人・物が行きかう、ナマステ!
大岩に刻まれた経典。
恥ずかしそうにとてもかわいい笑顔を向けてくれた村の女の子。
マニ車に彩色する職人さんとお坊さん。
いくつもの橋を渡る。パタパタと五色のタルチョが風にたなびく。
日が暮れると急激に寒くなる。薪ストーブを囲んで旅の情報交換。